変わりつつある島、田代島 ◆◆◆◆◆◆

ふたたび大泊

 

 大泊に戻った私は、もう一度ゆっくり見てまわりました。小さな山の斜面に何かを祀っている少し大きめの祠を見つけました。その屋根から一本の木が抜き出るように生えています。民家越しにそれを眺めていると、緩やかな坂道をおじさんが自転車を引いて上ってきます。仁斗田を出て半日、初めて人を見かけました。もちろんあいさつは交わしましたが、お互いに不意をつかれたようにはにかみ、それ以上のことはありませんでした。

 雨が強くなってきたのと、そろそろ船の時間も近づいてきたので、私は大泊港へと向かいました。海岸に人がいます。テントの中でおばさんがひとり、網からヒトデをとっています。近寄り、事情を話すと、快く雨宿りさせてくれました。私はさっきの祠のことを聞いてみました。するとそれはこのおばさんの家の祠で、金比羅様を祀っているそうです。あの木は屋根を突き破って生えてきたので、そのままにしているとのこと。そして自転車のおじさんは彼女のご主人でした。おばさんは、雄勝町から嫁に来たと言っていました。離れ小島に嫁に来るのはかなりの勇気ですねという私の質問に「以前はすごく栄えていてとても裕福な島だった」と当時を懐かしそうに語ってくれました。そのおばさんの前にある小船を見ると、舳先に金比羅丸と書いてありました。


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